はじめに

– 研究室に興味を持った医学科学生や大学院受験を考えている諸君へ –

私達の研究室は

  1. 繊毛の構造と機能、その異常に関する細胞生物学的研究、
  2. 質量分析法と学習機械を組み合わせた診断装置や研究装置の開発、
  3. 開発した研究装置を利用した腫瘍生物学や脂質代謝の研究、

という3つを大きなテーマとして掲げています。

これらを中心にして基礎医学、臨床医学という20世紀的な垣根に囚われることなく、何に役立つかはわからないが面白いもの、あるいは直接社会に役立つlことが明示的にわかるもの、という一見相反する領域を一体化して研究を進めています。これらの研究には相互に関係して研究が思わぬ方向に発展することがあり、古い仕切りを無視して間口を広げた醍醐味はここにあります。また、基礎科学を軽視した現在の科学政策へのささやかであるが、確信犯的な抵抗でもあります。

一時よりはかなり有名になったとはいえ、繊毛というかなり特殊な研究対象に身を投じる事を躊躇するひとが多いかも知れません。しかしながら繊毛はからだのあらゆる細胞に存在し、その存在様式も多様であることから、さまざまな興味を満たすことが出来る基盤的な構造であると考えています。実際研究を開始する上での出発点として繊毛を利用し、そこから独自の研究を開拓、展開していうことももちろん可能であり、それも一つの研究方法論であるといえます。実際、繊毛は多発性嚢胞腎や網膜色素変性症などの具体的な疾患の原因である一方、細胞感覚や細胞運動に関係する生命現象に必須の装置でもあります。また繊毛の研究に携わる上では様々な解析手法に通じる必要がありますので、その意味においても研究の初期トレーニングを行なう上で好適なテーマであるということが出来るかも知れません。

一方、諸君の中には、基礎的なことよりも、臨床に直結する研究を目指している人も多いことでしょう。私達の研究室では、島津製作所との長年の共同開発を通じて質量分析装置と学習機械から構成されるがん診断装置支援装置を製作しました。この装置を臨床現場に出すために医師主導治験を進めているところですが、装置自体には極めて多彩なアプリケーションの可能性があり、臨床各科でのニーズに応えうるポテンシャルを有しており、国内外の複数の施設との共同研究を展開しています。またそこから生命科学研究にも応用することが可能です。

この様に基礎生命科学から医療機器開発まで幅広い研究対象をもっていますが、本研究室は先鋭化した専門による視野狭窄とならないよう、週1回の定期教室セミナー (論文紹介、プログレスレポート) に加え、抄読会、読者会を開催しています。これまでにFrom Neuron to Brain, Glial Neurobiology, Wisdom of the Body, Developmental Biology, Primary Cilia など研究の間口を広げる成書を読んできました。また興味を持った学生と一緒の独仏の書籍も読んでいます。その中にはCanguilhemのLe normal et le pathologiqueやWeizsäckerのDie Rede vom 8 Mai 1985などが含まれ、大学が知の中心であった時代の雰囲気を少しだけ味わうこともできます。